精神病院に強制入院させられ、注射と薬物投与でショックを与えられながら改宗・脱会を迫られていた統一教会員が、東京高裁の判決により解放された
統一教会会員I氏(慶応大商学部及び法学部卒、商社勤務後に市民大学講座、国際勝共連合等で活動、当時30歳)は病院に監禁される以前、反統一教会牧師である森山諭牧師の教会で3日間にわたって脱会説得を受けるなどしていたが、ついに1979年12月7日、手錠をかけられた上で麻酔注射を打たれ、そのまま久留米ヶ丘病院に監禁されるという事件が起きた。
病院では毎日注射を打たれ、思い余って抗議すると「病状悪化」などと称して更に注射と薬物投与を強制された。そこにたびたび後藤富五郎(全国原理被害者更正会会長)がやってきて、統一教会を誹謗中傷しながらの脱会説得をしつこく繰り返される、という状態が続いた。しかし、I氏は激しい苦痛と心身の不調の中で信仰を貫き、教会側から起こされた人身保護請求裁判により解放された。
ただ、I氏の人身保護請求の手続を裁判所に申し立てることができたのは、同じ病院で過去に同様の被害を受けた教会員(Q子、J子等)がI氏入院の事実を突き止めて統一教会に知らせたために、かろうじて実現したものであって、もしも誰も通報する者がいなければ、I氏に対する無謀な薬物投与が続けられ、I氏の生命をも左右するほどの危険性のある事件であった。
昭和55年(人ナ)第1号

判  決
東京都世田谷区○○○丁目○番○○号の○○○
請求者 ○○ ○
東京都久留米市小山○丁目○番○号
久留米ヶ丘病院内
被拘束者 I
東京都久留米市小山○丁目○番○号
拘束者 久留米ヶ丘病院院長 ○ ○○
右当事者間の昭和55年(人ナ)第1号人身保護請求事件について、当裁判所は次のとおり判決する。

主 文
被拘束者Iを釈放する。
本件手続費用は拘束者の負担とする。

事 実
請求者代理人は、主文と同旨の判決を求め、拘束者代理人は「請求者の請求を棄却する。被拘束者Iを拘束者に引き渡す。本件手続費用は請求者の負担とする」との判決を求めた。
請求者代理人は、請求の理由として次のとおり述べた。
1. 被拘束者Iは、昭和54年12月7日、徳島県徳島市○○○○○○○番○号において、父○○○○・母○○○○○らによって手錠を掛けられ、乗用自動車に押し込められ、麻酔薬を注射されて眠らされた上で、翌8日、東京都久留米市小山○丁目○番○号所在の久留米ヶ丘病院に連行され、その情を知っていた拘束者である同病院院長○○○によって同病院に強制的に入院させられたものであり、被拘束者は、現在も拘束されている。
2. 被拘束者は、昭和24年○月○日生まれで、昭和43年3月徳島県立○○高等学校卒業し、同年4月慶応義塾大学商学部に入学して、昭和47年3月同学部を卒業し、同年4月同大学法学部に入学したが、昭和48年4月29日文鮮明を創立者とする世界基督教統一神霊協会(以下「統一教会」という)の東京本部教会に入会した。被拘束者は、昭和51年3月右法学部を卒業して郷里の徳島市に帰り、市民大学講座を開設するなどして活動していたところ、昭和54年6月、かねて加盟していた国際勝共連合(以下「勝共連合」という)の○○県本部事務局長に就任し、日夜同連合の運動に従事していたのであって、被拘束者は、拘束される日まで心身ともに健全であった。
3. 被拘束者の両親及び弟○○○○は、統一教会及び勝共連合の主義主張に反対であり、以前より被拘束者を統一教会及び勝共連号の組織から脱退させたいと考えていたところ、被拘束者が信仰仲間の○○○○○おt婚約したことを聞き及ぶや、被拘束者を統一教会及び勝共連合の組織から脱退させ、かつ、○○○○○との婚姻を阻止して両親の望む相手と婚姻させる手段はないものかと思案した。折柄被拘束者の両親及び弟は、統一教会に対する狂信的な反対者で全国原理被害者更正会の会長と名乗る後藤富五郎が、既に何人もの統一教会の会員をその父母と共謀して拉致し、久留米ヶ丘病院に強制入院させることによって「更正」させたと宣伝していることを知り、同人の甘言に乗って右と同様の手段を講ずることを決め、前記1記載のような所為に出て、被拘束者を拘束者に拘束っせるに至ったものである。
4. 被拘束者は、拘束者による拘束と洗脳のための処置により、行動の自由は勿論、統一教会の会員としての信仰の自由、勝共連合の会員としての政治活動の自由及び婚姻の自由等憲法の保障する基本的人権をことごとく踏みにじられている。たとえ両親であっても、成人に達した息子を、意見が食い違うことを理由として精神病院に強制入院させることは許されるべきことではない。
5. よって、請求者は、統一教会東京本部の家庭部長として、会員である被拘束者の人権を守るために被拘束者の救済を求めるものである。
(以下略)

理 由
拘束者が、昭和54年12月8日以降被拘束者Iを拘束者の肩書住所地所在久留米ヶ丘病院に入院させて同人を拘束していることは当事者間に争いがない。
そこで拘束者は、被拘束者が別紙診断書記載のような症状を呈していたので、精神縁製法第33条の趣旨に則り、保護義務者である両親の同意を得て被拘束者を久留米ヶ丘病院に入院させているものであると主張するのであるが、弁論の全趣旨により成立を認め得る疎乙第1、第2号証によっては、いまだ被拘束者が精神障害者であると診断されたものと認めることはできないというべきであり(右各号証の診断書には病名が記載されていない)、また、被拘束者を入院させるにつき、同人の扶養義務者のうちから家庭裁判所が選任した保護義務者の同意を得たとの事実を認め得る資料が存在しないばかりでなく、被拘束者本人の同意を得たとの事実については、その主張も、これを認め得る資料も存在しない。してみれば、その余の点について検討するまでもなく、拘束者において被拘束者を拘束し得べき事由は認められないものというべきである。
よって、請求者の拘束者に対する本件人身j保護請求は理由があるから、これを容認して、被拘束者Iをを釈放することとし、本件手続費用の負担につき人心保護法第17条、人身保護規則第46条、民事訴訟法第89条を適用して、主文のとおり判決する。

東京高等裁判所第二特別部
裁判長判事 杉 田 洋 一
     判事 蓑 田 速 夫
     判事 加 藤 一 隆