講談社「月刊現代」が強制改宗事件に関するドキュメント掲載
「月刊現代」2004年11月号 講談社(11月1日発行) 284-303頁
長編ドキュメント
統一教会信者「脱会」後の重い十字架
書かれざる「宗教監禁」の恐怖と悲劇
米本和広(ルポライター)  
 書評  超人類ネット会長・江本武忠(えもと・むちゅう) 2004.10.6
上掲書に所収されたドキュメント(以下「本稿」という)の執筆者・米本和広氏は、これまで「カルト」宗教の諸問題について論述してきた人物であり、統一教会に対しても批判することはあっても賛同的なことを書いた氏の文章など読んだことがない。ただ、私は米本氏の『教祖逮捕』、『大川隆法の霊言』などを読んだことがあるが、記述が具体的であり、感じたことを率直に書く人だという印象はあった。もちろん、本稿も統一教会に賛同する意味で書かれたものではなく、あくまでも統一教会が抱える深刻な問題である拉致監禁・強制改宗について調べてみた所、これを重大な問題として提起せざるを得なくなったということである。

米本氏のスタンスは次のようである。すなわち、統一教会が「高額な信者献金」や「正体を隠しての伝道活動」の問題で社会的批判を受けても仕方はないが、「だからといって、子ども──子どもといっても成人であり、なかにはすでに結婚し家庭を築いている人もいる──を強引に拉致監禁し、強制的に説得するという行為が許されるはずはない。『拉致監禁』は刑法220条の『監禁罪』=懲役3ヶ月以上5年以下に相当する犯罪であり、たとえ親でも免責されるわけではない。(中略)『信者救出』の名のもとに行われる拉致監禁は許されるのだろうか──本稿で私が問いたいのは、まさにそのことに尽きるのである」(上掲書、288〜230頁)。

この米本氏の考えは、「坊主憎けりゃ袈裟まで憎い」というような統一教会の反対者やマスコミ姿勢に見られる感情論を脱している点で、大いに評価されねばならないと思う。また、暴力的な拉致監禁事件で裁判となった今利理絵さんの事件(高裁で敗訴、最高裁に上告中)についても、氏は「正直に告白するが」と述べた上で「事実を確かめることもなく、要請されるままに牧師支援のカンパに応じた」ことを述べている。それほどに、統一教会の拉致監禁問題は一般に知られていないのである。またそれだけに、その実態に少しでも触れた氏の驚きがいかほどであったかは察するに余りある。

さて、本稿では統一教会信者であった宿谷麻子さんが路上で親から暴力的に拉致監禁された事件など、いくつかの具体的事例をもとに考察が進められる。その中で、
大いに読者の関心をひく問題として、白昼公然と拉致されるという暴力を目の前にして警察が全く取り合わなかったことがあげられる。人権思想が発達した諸外国では到底考えられないことである。しかし、あの山崎浩子さんの拉致失踪事件がそうであったように、拉致監禁の首謀者が統一教会の問題を「親子問題」にすりかえる巧妙な仕組みを利用し、その上「マインドコントロールされている」という便利な常套句を利用することによって、拉致監禁という犯罪行為のほうが正当であるかのような、まるで手品のような芸当が公然とまかり通ってきたのである。

更に、これほどに暴力的な犯罪行為が裁判になった場合、裁判官がそれを違法であると認められないケースが多いのも実に不可解である。
上述の今利さんの裁判では審理における事実認定の過程と判決文の内容に相当の乖離(かいり)があるのではないかという話も聞いているので、それについても今後詳細に調べる必要があると思う。一体、裁判官がいかなる理由でこれほどの暴力的拉致監禁行為を正当なものと是認したのであろうか、実に不思議である。

本稿では実際に拉致監禁行為を共同して行なってきた日本基督教団の黒島栄牧師(横浜市、戸塚教会)、清水与志雄牧師(名古屋東教会)、福音派の高澤守牧師(神戸真教会)らの所業についても言及している。高澤牧師は拉致してきた信者に向かって包丁を机に突き立てて、部屋を出るのなら「この包丁で私を刺してから」出て行けなどと脅迫したこともあるという。
私など、こういう違法な行為を行なう人が牧師を名乗っていること自体不思議でならないが、そういう行為を認めている日本基督教団や福音派教団にも強い疑問を感じる。

ともかく本稿は統一教会信者に対する拉致監禁事件について具体的内容を公表し、被害者の深刻な実態について問題を提起した貴重な資料であることは間違いない。
拉致監禁された人々は、その後に統一教会を脱会したか否かに関わりなく、強烈なPTSD(心的外傷後ストレス障害)を受けてしまう。そして、その深刻な悩みは社会的に一切問題にされず癒されないままなのである。1件や2件ならば特殊な事例ということもあるだろう。しかし統一教会の拉致問題は年間にして数百件存在するのである。彼らはボランティアではなく金を取っているので、儲かるからこそ続いているという側面も無視できないであろう。

以前、ジャーナリストの室生忠氏が勇気をもって統一教会の拉致監禁事件のことを月刊誌「創」に連載したことがあるが、室生氏はその件で反統一教会の学者から提訴されることとなった。その裁判は室生氏の敗訴となったのであるが、裁判所自体が統一教会の社会的悪評に左右された感があり(そんな理由で判決を下してもらっては困るのだが日本の裁判官はマスコミを恐れる保身主義者が多い)、教会信者としては実に痛々しく感じた。

願わくは、統一教会信者の拉致監禁事件を扱われる論者におかれては、事件に左翼の学者、ジャーナリスト、弁護士らも深く関与しているところまで追及し、更に日本の裁判がいかに偏向しているかという問題にも触れていただけたら大変ありがたいのであるが、本稿によると、すでに「(米本氏から)取材申し込みがあるかもしれないが、十分に注意するように」(303頁)と仲間たちに呼びかけている「反カルト」の弁護士も存在するようなので、米本氏がまた室生忠氏と同様に訴えられたり、身辺に危険が及んだりしないことを祈るばかりである(まさか拉致監禁されることはないと思うが)。

<参考記事> 世界日報 2004.10.28(11面)「論壇時評」 ──書かれざる「宗教監禁」──